「できなくてもしょうがない」は、終わってから思うことであって、途中にそれを思ったら、絶対に達成できません。
イチロー(プロ野球選手)
某日。
外回りの仕事を早めに終えたため、空はまだ明るく、とてもいい天気だ。
たまには青空喫煙所での一服でもしようと思い、会社から近いとある青空喫煙所へ。
タバコを取り出し、火をつけようと思ったが、どうやらライターを忘れてきたようだ。
ふと周りに目をやると、サラリーマンばかりの喫煙所にこの場に似つかわしくないカジュアルな服装の可愛らしい女の子。
せっかくだし、可愛い女の子にライターを借りようと思い、声かけ。
「すみません、ライター借りてもいいですか?」
『あ、たくさんあるのであげますよ。』
「ありがとうございます。あ、いや、これはお借りしたものなので今度お返しします。」
少しばかり世間話をし、ライターを返す約束を取り付け、連絡先を交換し、その場を後にした。
それから1ヶ月。
世間はハロウィンに向けて、軒先にはカボチャやおばけなどの飾り付けが目立つようになってきた。
イベント時期はザオラルの意味も込めて、イベントごとのメールを送るようにしている。
もちろん、彼女も送り先の1人として。
すぐさま返信があった。
ハロウィンの予定を聞くと、夕方から空いているようだったので飲みに行く約束をした。
約束を取り付ける会話の中で彼女の求めるモノが少し見えた。
「俺、人を褒めて伸ばす人だから。」
『それとてもいいです!けなされたら冗談でも嫌いになります笑』
よくスト高はマウントを取った方がよいなどの声を聞くが、俺は基本的にどんなに可愛くても基本的に褒めるようにしている。
褒められて嬉しくない人はいないと思うから。
ただありきたりな褒め方は相手をうんざりさせ、逆にマイナスポイントになる。
じっくり相手の話を聞き、相手が褒めて欲しいと思う部分を探り出して、ピンポイントで褒めるよう心がけている。
喫煙所で出会った時、歯の矯正に気づいた。
「そういえば、歯の矯正してたよね。歯並びをきちんとしようする自身を高めようとする向上心、とても素晴らしいと思う。」
『美容業界だから、綺麗な人多くて、自分も可愛くなりたいな〜て思ってます!』
類は友を呼ぶ。
可愛い子の周りには可愛い子が集まる、ということなのだろうか。
その中で些細なことにも気を配り、負けないように地道な努力をしている彼女が少し愛おしくなった。
『向上心がある女性、とても素敵だと思う。俺はそういう女性が好きだな。』
「ありがとうございます!そう言ってもらえるのとても嬉しいです!」
そう言う彼女の喜んでいる笑顔を想像しながら、当日を楽しみにした。
ハロウィン当日。
お互い仕事などが忙しく、当初の時間よりだいぶ遅れるも、無事合流。
ネットで探したお酒が美味しいお店へ。
まずは乾杯をし、借りてたライターを返すことに。
「えー、てっきりもっとすごいライターになってると思ってたのに笑」
『いやいや、中のガスにちゃんと魔法かけてるから笑。奇跡がおこるライターになってるから。』
冗談を交えつつ、彼女のことを聞いたり、自分のことを話したりした。
・チャラい男は嫌い
・今までの彼氏は片手で収まる
・極端なツンデレ
・年上が好き
ただ話せば話すほどに彼女に違和感を感じ始めた。
その後、会話の中で違和感が確信になったため、不意に切り込んでみた。
『間違ってたらごめんだけど、今、彼氏と同棲してるでしょ?』
「え?なんでわかったんですか?」
『さっき答えに一瞬詰まったから。それに彼氏のこと、かなり好きとみた。』
「実はそうなんです。付き合ってまだそんな長くないんですけど、顔も私好みのイケメンでたくさん甘えさせてくれるんです♡」
『とても素敵な彼氏さんだね。ただ、そんな彼氏だけど、もしや不満があるとか?』
「実は全くそんなことないんです。とても素敵な彼氏です♡」
言い当てたものの、即るにはマイナス要因。
彼女は彼氏がいるにも関わらず、それを言わずに会いにきたということは、少なからず俺に好意があり、仲良くしたいと思ってくれてたはず。
少しでもマイナス印象を与えて食いつきが下がった際に彼氏グダで逃げられてしまう可能性を自分から作ってしまった。
墓穴を掘るとは、まさにこのことか。
いや、まだだ。
まだチャンスはある。
よく考えるんだ。
付き合いたての彼氏がいて、満足してるにも関わらず、俺に会いにきた理由が必ずあるはずだ。
まずは冷静になり、彼女との物理的な距離を縮めて反応を見るため、隣席へ。
嫌がるそぶりはない。
いい感じで酔いもまわってきたため、よりプライベートな内容に。
「彼氏によく甘えるって言ってたし、年上好きってことは○○ちゃん、実はドMでしょ?」
『そんなことないですよー。どっちもいけると思います笑。』
「そうなんだね!どっちもいけるって器用なんだね笑。それにしても、ほんといい唇してるよね。さすがにキスはできないから、せめてつまませて笑。」
唇をそっと触るも、抵抗は無い。
彼女は照れを隠すためか、俺の唇に話題を変えた。
『タダオさんの唇も厚くて、柔らかそうですよね。』
「分厚くて良い唇でしょ?て、誰が明太子や!」
『笑笑』
冗談も交えつつ、少しずつ彼女との距離を詰めた。
カラダの距離と共に心の距離も。
ここで一つ賭けに出た。
「◯◯ちゃんて雰囲気明るいし、ノリもいいから、チャラく見られがちだけど、実際はとても真面目。それに美意識も人一倍高くて、努力家だし、彼氏にはとても一途。」
『全然そんなことないですよ~笑』
「ただ一見リア充に見えて不満なんてなさそうだけど、実は自分に自信がないようにも見える。」
『うん。全然ない。もっと可愛くなりたい。』
「その向上心、やはり素敵だね。それともう一つ感じてたことなんだけど、実はとても好奇心旺盛でしょ?」
『うん、そのとおりですよ。』
やっと、彼女の心に触れることができた瞬間だった。
「それなら、俺の唇の柔らかさを試してみない?一番分かりやすい部分で。」
『???』
一瞬キョトンとする彼女を構わず、抱き寄せた。
抵抗は全くないが、彼女は耳元でこう囁いた。
「私、彼氏いますよ。。。」
『知ってるよ。ただ、先に一つ謝らないいけないことがある。』
「・・・なんですか?」
『今日はハロウィンで魔法が使えるんだよ。実はこっそり◯◯ちゃんに素直な悪い子になるよう魔法をかけておいた。だから、今日のことは全部魔法のせい。』
「笑笑」
そっと唇を近づけると、彼女は我慢していたのか、激しくキスを求めてきた。
『ここだと落ち着かないし、アイスも食べたいから、場所を変えよう。』
「どこにですか?」
『ハリー・ポッターと秘密の部屋という映画は知ってる?実は今日だけ誰でもその秘密の部屋に行けるんだよ、なんせハロウィンだからね。』
すぐさまお会計をし、秘密の部屋へ。
到着するなり、お互い生まれたままの姿になり、お互いを激しく求めあった。
そして、実はここからちょっとしたサイドストーリーがあるのだが、それはまたの機会に。
着替えを済ませ、駅まで彼女を見送る。
『もうそろそろ12時だ。ハロウィンマジックもそろそろ切れてしまうね。今日はとても楽しかったよ、ありがとう。』
「こちらこそ、今日は楽しかったです。また遊びましょう!」
社交辞令だとしても、また遊ぼうと言われるのは嬉しいものだ。
『気をつけて帰るんだよ。ハッピーハロウィン♪』
「ありがとう、ハッピーハロウィン♪♪」
そう言って、改札に吸い込まれていく彼女の背中を見送った。
世間は仮装で賑わうハロウィン。
道行く人はみな笑顔に包まれてる。
俺は彼女と出会った喫煙所で一服してから帰ろうと思い、立ち寄った。
タバコを吸いつつ、ふと思った。
実は魔法にかけられたのは彼女ではなく、俺の方だったのでないだろうか、と。
あのライターを借りてからというもの、声かけが楽しくなり、憧れの人とも会えた。
たかがライター、されどライター。
あのライターはこれからも彼女を幸せにしていくのだろう。
そう思いながら、帰路に着いた。
ハロウィンはとてもいい日だ。
みんな楽しそうにしている。
そんな時こそ、ドラマは生まれる。
さぁ、みんなも街に出て、まだ見ぬ素敵な人を探しにいこう。
ナンパには夢がある!
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